Arsenalの収支構造
まさか、経営破綻しないよね?
昨年は大型補強を敢行。おかげで、一時的ではありましたがCL出場も期待できるくらいの陣容になりました。
しかしながら、コロナ影響もあって「クラブ収支が大赤字に」という記事を何回か目にしました。
コロナ影響もありますが、近年は獲得選手は高額、放出はフリーに近い...という移籍市場での駆引きの下手さが絶対に財政を圧迫してるハズ。
なのに今年も割とまとまった支出で積極補強する勢い(勢いだけで、結果的に支出しないかもですが)。本当にこのクラブ、破産しないだろうか?と心配になりませんか?
そういえば、何ヶ月か前に、クラブ収支は大赤字だった、的な記事見たな…。
で、気になって調べてみました。
参考とした記事
以下3つの記事をもとに考察してました。
1. Club financial results for 2020/21
2. Arsenal supportor's trust
3. Annual Review of Football Finance 2021
まずはArsenal公式サイト。2022年2月28日に年間収支報告記事がありました。しかし、コレだけだとイマイチ意味が分からん。
なので、もう一つ参考にしたのが2番目の記事。公式発表を噛み砕いた内容が掲載されていたため、大いに参考にさせてもらいました。当該サイトの運営元はArsenal Supportor's Trust(AST)です。
ちょっと脱線しますがASTサイトのaboutを除いてみるとこんなことが書いてあります。
The history of the AST
The Arsenal Supporters' Trust was founded in 2003.Our initial objectives were to:
-Facilitate wider supporter involvement in Arsenal
-Promote the interests of supporters who own shares in the club
-Facilitate and promote wider supporter ownership of Arsenal
ファンが運営する非営利団体だろうなとは思ったんですが、色々検索するとfootballistaに面白い記事を見つけました。
要するにクラブに投資するファン所有のトラスト(信託)組織。
ということは内容に信頼の置けそうですね。
最後はデロイトの調査結果。こちらは他のクラブも含めて大まかなリーグの終始構造を考察していて、面白かったので参考としました。
先に断っておきますが、わたくし、英語は苦手でございまして、誤訳・誤認を含む可能性が大いにあります。もしお気づきになられましたら、是非ご指摘頂ますようお願いいたします。
あと、円⇔ポンドの換算レートは160円/£を使いました。本記事執筆中の今現在はウクライナ情勢等の影響で随分円安進行してまして、お読み頂く際とはちょっとレート感覚がズレるかも知れませんが、ご容赦ください。
ナゼ2シーズン前決算が今?
今回考察するのは2021年2月期の決算発表...っておかしいでしょ?!普通このタイミングで発表されるのって2022年2月期でしょう?
しかし2022年2月28日の公式サイトにUPされた決算発表にはfor the year ended May 31, 2021.
としっかり書かれている。
随分古新聞な気がするが、この業界ではコレが通例なのだろうか?
とにかく、決算内容を読み解くためには2020-21シーズンを振り返らなければならない。
年間収入
項目 | 2019/20 | 2020/21 |
---|---|---|
matchday revenue | £75.0m | £3.8m |
broadcasting revenues | £118.9m | £184.4m |
commercial revenue | £142.3m | £136.4m |
property development | £1.1m | £0.6m |
Player trading | £3.5m | £3.1m |
share of JV | ▲£0.4m | ▲£0.5m |
Total revenue | £344.5m | £328.2m |
企業で言うところの所謂「売上」は£328.2m(≒525億円)。前年からは約5%減収。
ここ、厳密に言うとGP(Gross profit : 売上総利益)相当かも知れません。会計上の厳密さは、私には判断が難しく、そのあたりの誤りはご容赦ください。
マッチデイ=試合のチケット収入だと思いますが、凄まじい減り方。コロナ禍で無観客試合だった影響が色濃いですな。
Despite playing 31 home matches only two of these games were played with any fans present.
31試合あったホームゲームのうち観客動員できたのは僅かに2試合。
しかしそれを相殺できるくらいの放映料収入が激増し、トータル減収が5%だけに留まって。これについては次のように説明されている。
reflecting distributions relating to the completion of the 2019/20 season and the club’s progress to the semi-finals of the Europa League
ELごときに、と思ってましたが、ELも馬鹿にならないですね。その前の年はベスト32に対してこの年は準決勝敗退。上位進出できたことが放映料増の理由とのこと。ってことは、出場すらできなかった2021-22シーズンは放映料が激減するんじゃ…?
最後のCommercial revenueはグッズ販売とかスポンサー契約料とかの収入のようで、こちらは昨年から微減。これもコロナ影響なんでしょうね。
あと細々とした不動産収入と、選手の売買益。
年間費用
項目 | 2019/20 | 2020/21 |
---|---|---|
staff costs | ▲£234.5m | ▲£244.4m |
other operating charges | ▲£79.1m | ▲£47.6m |
amortisation of squad | ▲£113.3m | ▲£117.4m |
other(Depreciation) | ▲£16.6m | ▲£16.7m |
Total costs | ▲£443.5m | ▲£426.1m |
staff costsは人件費で、約391億円。スタッフ給与と言いつつ、主にファーストチームメンバーの給与が大半を占めるようです。個々の部分はいづれ時間があるときに考察したいですね。高給取りがどれくらい収支インパクトを与えているのか興味があります。前シーズンに比べて微増で、コロナ禍のため昇給を保留にしてもらったりして微増で済ませたと決算では述べられているみたいです。
other operating chargesはその他諸々の営業活動に関わる費用かと思いますが、あまり増減理由については触れられていないような、読み取れなかっただけなのか。。。とにかく前年からは約56億円(£35.1m)のコストダウンになっている。
amortisation of squad。約188億円(£117.4m)が計上されてます。昨年からは微増。これが選手獲得に費やされた費用だと思いますが、分析が難しいところですね。なにせamortisationを訳すと(あってる?)
無形資産の償却可能価額を規則的にその耐用年数にわたって配分することをいう。
らしい。
ってことは、キャッシュフローと別の動きになってしまう。例えばこの年のトーマス・パーティー獲得のため€50mの費用が必要だったらしいが、amortisationの項目には何年かに分割されて反映されるので、£117.4mのうちの€50mがトーマスだとは言えない。キャッシュフロー計算書で確認できるとしても、選手獲得費用支払いが分割払いになってたりするので…分析に時間がかかりそうなので、後日考察しよう。
other(Depreciation)。減価償却。詳細不明ながら約27億円(£16.7m)はほぼ昨年と同額。
営業利益▲157億円(£97.9m)
以上のプラマイを簡単にまとめると。
項目 | 2019/20 | 2020/21 |
---|---|---|
Total revenue | £344.5m | £328.2m |
Total costs | ▲£443.5m | ▲£426.1m |
Total(Operating profit) | ▲£99.0m | ▲£97.9m |
あれ?昨年と変わらん??
選手売却は営業外収益?
ここに営業外の項目を加算していきます。
項目 | 2019/20 | 2020/21 |
---|---|---|
Total(Operating profit) | ▲£99.0m | ▲£97.9m |
Share of JV operating | ▲£1.5m | ▲£1.3m |
Profit on disposal of player registrations | £60.0m | £11.8m |
Net finance charges | ▲£13.6m | ▲£39.8m |
Loss before taxation | ▲£54.0m | ▲£127.2m |
..ということでクラブ史上最大の赤字になりました、という流れです。ローンも含めた選手獲得・売却の収支インパクトは複雑ですね。選手獲得はP/L上では償却という形で営業利益側でカウントされ、売却は営業外収支側にカウントされてます。企業の設備投資・売却の際もP/L上はこんな感じなんかな?なにしろ、わかりにくい。
選手の取引に関する収支項目だけ抜き出すと(営業活動内外関わらず)以下のようになります。
項目 | 2019/20 | 2020/21 |
---|---|---|
Player trading | £3.5m | £3.1m |
share of JV | ▲£0.4m | ▲£0.5m |
amortisation of squad | ▲£113.3m | ▲£117.4m |
Share of JV operating | ▲£1.5m | ▲£1.3m |
Profit on disposal of player registrations | £60.0m | £11.8m |
当時の選手獲得収支インパクトは?
transfarmarket.comで当時獲得した選手達の金額影響を振り返ってみました。単位がユーロだからな〜。
2020/21年シーズン
主な獲得選手 | 金額 |
---|---|
Thomas Partey | ▲€50.0m |
Gabriel | ▲€38.0m |
Pablo Marí | ▲€6.0m |
Rúnar Alex Rúnarsson | ▲€2.0m |
Martin Ødegaard (loan fee) | ▲€2.0m |
ウーデゴーはローンで€2.0m、その他完全移籍での選手獲得に約€96m(1€を0.85£とすると、≒£82m)の費用を使っている。前述費用支出でamortisation of squad
は£117.4mだったので、やはり合致しない。€96mは向こう何年かに分割してかかることになります。
主な売却選手 | 金額 |
---|---|
Emiliano Martínez | €17.4m |
Mattéo Guendouzi (loan fee) | €1.0m |
Konstantinos Mavropanos(loan fee) | €0.8m |